世界には、一年中同じような気候の地域や、雨季と乾季しかない地域など、四季がない地域も少なくありませんが、イタリア半島には、日本と同じく春・夏・秋・冬の四季があります。もっとも、気候のあり方は日本と完全に同じではなく、イタリアの大部分は地中海性気候に属するため、一般に夏は高温で乾燥し、冬は比較的温和で雨が多いという特徴があります。したがって、「四季がある」という点では共通していても、その体感や季節ごとの自然の現れ方には少なからぬ違いがあります。
ラテン語における季節名は、古代ローマ人の生活感覚を理解するうえで重要ですが、現代ヨーロッパ諸語の言語史を理解することで、さらに興味深く学ぶことができます。実際、季節を表す語の多くは、イタリア語・スペイン語・フランス語・英語などに、直接または間接に受け継がれています。ただし、その継承のされ方は一様ではありません。ある語は比較的素直に音変化を経て現代語に残りましたが、別の語は途中で別表現に置き換えられたり、意味がずれたり、俗ラテン語・中世ラテン語を経由して別の語形として定着したりしました。季節名は、一見すると基本語彙にすぎないようでいて、実はロマンス諸語の分化や意味変化を考えるうえで興味深い素材なのです。
ここでは、ラテン語の季節名をまとめておきます。格変化が確認できるように、単数主格形・単数属格形・性を示し、あわせて主な現代語との関連にも触れます。
ver, veris (n.)
春。
ラテン語 ver は「春」を意味する中性名詞で、古典ラテン語では非常に基本的な季節名です。短く古い語であり、印欧語族の中でもきわめて古い層に属する語と考えられています。ラテン語ではこの ver から、「春に」「春の初めに」を意味する表現 primo vere が作られ、これが後のロマンス語に大きな影響を与えました。イタリア語 primavera はまさにこの primo vere に由来すると説明されます。Treccani も primavera を古典ラテン語 primo vere に由来するものとしています。
ここで興味深いのは、現代ロマンス諸語では、ラテン語の単純な ver がそのまま春の基本語として広く残ったわけではない、という点です。イタリア語では primavera、フランス語では printemps、スペイン語では primavera が一般語となっており、いずれも「春そのもの」より、「春の始まり」「最初の季節」といった発想を背景にしています。つまり、ラテン語の春は、単独語 ver よりも、複合的・周辺的な表現を通じて後世に強く残ったといえます。
また、スペイン語 verano は現代では「夏」を意味しますが、RAE はその語源を俗ラテン語 veranum [tempus] に求めています。これはもともと ver(春)に関係する語であり、季節区分の歴史の中で意味がずれて現在の「夏」に至ったものです。RAE の学術誌には、中世スペイン語圏で verano と estío が現在とはやや異なる季節区分で用いられていた例が紹介されています。したがって、春を意味するラテン語の語根が、後には夏を表す語へ発展したというのは、意味変化の好例といえるでしょう。
aestas, aestatis (f.)
夏。
ラテン語 aestas は「夏」を意味する女性名詞で、古典ラテン語以来の基本語です。この語はロマンス諸語に比較的明瞭な形で受け継がれており、イタリア語 estate はその典型例です。音形のうえでも、aestas から estate への連続性は比較的見えやすいといえます。
フランス語 été も同系統の語ですが、音変化が大きく進んでいるため、ラテン語との対応は一見しただけでは分かりにくくなっています。もっとも、フランス語の été もラテン語系の季節語彙の継承の一環として理解されます。
スペイン語については、現代の一般語は verano ですが、estío という語もなお存在しており、これはラテン語 aestas に対応する系統の語とみなされます。つまり、スペイン語では「夏」をめぐって、ラテン語 ver 系の verano と、aestas 系の estío とが並存してきたことになります。このような二重系列の存在は、言語史的に非常に興味深い現象です。
autumnus, autumni (m.)
秋。
ラテン語 autumnus は「秋」を意味する男性名詞で、この語は現代ヨーロッパ諸語に比較的よく保存されています。フランス語 automne、イタリア語 autunno、英語 autumn は、いずれもこのラテン語に由来する語です。CNRTL もフランス語 automne をラテン語 autumnus からの借用語としています。
この語の面白いところは、ロマンス諸語だけでなく、英語にも学術的・文芸的語彙として入っている点です。英語では日常語として fall も使われますが、autumn はよりラテン語的・フランス語的な語感をもつ語として残っています。ここにも、ラテン語が直接にではなく、フランス語や中世ラテン語を媒介にして近代ヨーロッパ諸語へ影響した歴史の一端を見ることができます。
一方、スペイン語の一般語 otoño は、見た目の上では autumnus とかなり異なっています。したがって、秋の語彙はロマンス諸語の中でも比較的一様ではなく、ラテン語形がよく残る言語もあれば、より大きな変化を経た言語もある、ということになります。こうした違いは、各言語がラテン語をどう継承し、どこで音変化・再編成・語彙交替を起こしたかを考える材料になります。
hiems, hiemis (f.)
冬。
ラテン語 hiems は「冬」を意味する女性名詞です。ただし、現代ロマンス諸語においては、この hiems がそのまま残ったわけではありません。むしろ、後代には hibernum tempus(冬の時期)などの関連表現から生じた語形が一般化し、そこからイタリア語 inverno、スペイン語 invierno、フランス語 hiver などが成立しました。CNRTL はフランス語 hiver を、後期ラテン語 hibernum(古典ラテン語 hibernum tempus の短縮形)からの借用と説明しています。
この点は言語史的にとても重要です。つまり、古典ラテン語の基本語 hiems は、必ずしもそのまま後世の標準語の中心語彙にはならず、関連形容詞・派生形・周辺表現のほうがむしろ生き残ったのです。これは、語彙継承が必ずしも「古典語の基本形 → 現代語の基本形」という単純な対応ではないことを示しています。現代ロマンス諸語は、古典ラテン語そのものをそのまま保存したのではなく、俗ラテン語や中世的用法の中で再編成された語彙体系を受け継いでいる、ということがここにもよく表れています。
以上の通り、ラテン語の季節名を見ていくと、現代語との関係は一様ではありません。aestas → estate / été / estío や autumnus → automne / autunno / autumn のように、比較的分かりやすく受け継がれたものもありますが、ver のように単純形そのものは後退し、primo vere → primavera のような複合的表現が後世の基本語になったものもあります。また、hiems のように、古典語の基本語ではなく、関連語である hibernum 系列が現代語の中心となった例もあります。
このことは、ロマンス諸語が単純に「ラテン語の子孫」であるというだけでは十分でなく、そのあいだに俗ラテン語化、意味変化、語彙交替、地域差、文体差など、さまざまな歴史的過程が介在していることを示しています。季節名のような基本語彙でさえそうなのですから、より抽象的・専門的な語彙においては、なおさら複雑な発展をたどっているといえるでしょう。

