ラテン語の回数表現(数副詞)

ラテン語

頻度表現が「いつも」「しばしば」「稀に」といった抽象的な起こりやすさを示すのに対し、回数表現は「一回」「二回」「三回」のように、ある行為や出来事が具体的に何回行われたかを示します。ラテン語ではこの種の表現もよく整備されており、文法上はしばしば数副詞(numeri adverbiales、〈英〉adverbial numerals)と呼ばれます。数副詞は、semel, bis, ter, quater という不規則な形ではじまりますが、五回以上は主として -iēns / -iēs 型の語尾で作られる規則的な形をとります。

言語学的に見ると、この系列はたいへん興味深いものです。というのも、ラテン語には、基数詞(ūnus, duo, trēs…)や序数詞(prīmus, secundus, tertius…)とは別に、「何回」を表す専用の副詞系列が存在するからです。現代ヨーロッパ諸語では、英語 once, twice, three times のように、古い専用語と分析的表現が混在することが多いのに対し、ラテン語では少なくとも古典文法の整理の上では、かなり統一的な体系が見られます。

以下では、基本的な回数表現を、語源や後代への影響にも触れながらまとめておきます。

semel

一回。一度。
ラテン語でもっとも基本的な回数副詞で、「一度」「一回」を意味します。古い文法伝統では ūnus(一)に対応する数副詞として位置づけられます。意味の上では、単に回数を表すだけでなく、文脈によっては「一度でも」「たった一度」といった含みをもつこともあります。文法書も semel = once と説明しています。

語源面では、印欧語の「一」を表す古い語根と関係づけられるのが普通ですが、形の上では単純に ūnus から機械的に作られたものではなく、かなり古い時代から独立した副詞として定着していたと見るほうが自然です。つまり、ラテン語の回数表現は、少なくとも一回から四回までは、後から規則的に組み立てたというより、古い専用語を保持している面が強いといえます。

bis

二回。二度。
duo(二)に対応する数副詞で、「二回」「二度」を表します。これもきわめて古い基本語であり、古典ラテン語では日常的にも文学的にも広く用いられます。英語の twice にあたる働きをします。

言語史の観点から見ると、ラテン語では「一回」「二回」がそれぞれ semel, bis という単独の古い副詞で表されており、現代英語の once, twice と似た類型を示しています。これは、回数表現のうち低い数字ほど不規則で古い形を保ちやすい、という歴史言語学上よく見られる傾向に合致します。

ter

三回。三度。
trēs(三)に対応する数副詞です。意味は明快ですが、語形はやはり専用的で、単純に基数詞の語尾を変えたというより、独立した古い副詞系列の一員と見るべきものです。文法書でも ter = thrice / three times と整理されています。

言語史的には、英語の thrice がやや古風になったのに対し、ラテン語では ter がごく普通の文語表現でした。また、ラテン語ではこの ter が後に「三重に」「三倍に」といった派生表現の基盤にもなり、数詞体系が副詞・形容詞・派生語へ連動していく様子が見て取れます。

quater

四回。四度。
quattuor(四)に対応する数副詞です。一回から四回までの回数表現は、semel, bis, ter, quater という、短く独立した古い形でまとまっています。五回以降に見られる -iēns / -iēs 型の規則的形成とは異なり、ここには古層語彙としてのまとまりがあります。

この点は言語学的に重要です。数詞体系では、低い数ほど不規則形を保ち、高い数ほど規則的に形成されやすい傾向があります。ラテン語の回数副詞もまさにその例で、四回までは古い専用語、五回以降は比較的規則的な形になる、という構造を示しています。

quīnquiēns / quīnquiēs

五回。
ここから先は、主として -iēns または -iēs を伴う形が現れます。文法書では quīnquiēns (-ēs) のように、両綴りが示されています。これは五回以上の数副詞が、ある程度規則的な系列として意識されていたことを示します。

綴りに -iēns / -iēs のゆれがある点も興味深いところです。これはラテン語の数副詞が、生きた言語として発音や綴字に一定の揺れを持っていたことを示しており、古典ラテン語が完全に一様な固定体系だったわけではないことをうかがわせます。

sexiēns, septiēns, octiēns, noviēns, deciēns

六回、七回、八回、九回、十回。
これらも五回と同様、比較的規則的な数副詞系列です。文法書は sexiēns, septiēns, octiēns, noviēns, deciēns を標準的な形として掲げています。ラテン語の数副詞は、このあたりからかなり機械的に並べられるようになり、学習者にとっても体系的に理解しやすくなります。

言語史的に見ると、この「低い数では不規則、高い数では規則的」という構造は、非常に自然です。高頻度で日常的な「一回」「二回」「三回」は古い固有形を保ちやすい一方、それ以降は類推によって整えられやすいからです。これはラテン語に限らず、多くの言語の数詞体系に共通する現象です。

undeciēns, duodeciēns, terdeciēns … vīciēns

十一回、十二回、十三回……二十回。
十一回以降も、文法書では undeciēns, duodeciēns, terdeciēns, quaterdeciēns … vīciēns のように整然と並べられています。十八回・十九回には、基数詞と同様に「二十に二足りない」「二十に一足りない」に対応する duodēvīciēns, ūndēvīciēns も見られます。

ここでも、ラテン語の回数表現が基数詞体系と密接に結びついていることが分かります。つまり、回数副詞は単なるバラバラの語ではなく、数詞体系全体の一部として構造化されているのです。この点は、ラテン語文法の整然さを示す好例でもあります。


ラテン語の回数表現は、semel, bis, ter, quater という古い不規則的な基礎語群と、五回以上に広がる -iēns / -iēs 型の比較的規則的な系列とから成っています。これは、数詞体系において低い数字ほど古層語彙を保ち、高い数字ほど類推的・規則的になりやすいという、歴史言語学上よく知られた傾向に対応しています。

また、ラテン語では基数詞・序数詞・配分数詞・数副詞といった複数の数詞系列が並立しており、回数表現もその一環として明確に位置づけられています。したがって、semelbis は単なる語彙項目ではなく、ラテン語が数をどのように体系化していたかを示す窓口でもあります。現代ヨーロッパ諸語では、こうした体系はしばしば崩れて、専用語と分析的表現が混在するようになりますが、ラテン語にはなお古い構造が比較的はっきり残っています。

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