漢字の多くが偏(へん)と旁(つくり)から成るように、ラテン語の単語の多くも前綴りと基本動詞の組合せからできています。基本動詞に前綴りが加わることで新たな意味が生じ、多くの名詞もそこから派生します。そのため、前綴りを学ぶことは、漢字の偏を学ぶのに似た効果があります。前綴りと基本動詞を知れば、語彙を体系的に整理して覚えやすくなり、単語の意味も推測しやすくなります。
さらに、ラテン語の語彙は現代ヨーロッパ諸語にも広く受け継がれています。したがって、ラテン語の前綴りを身につければ、英語・フランス語などの現代語の語彙理解や未知語の類推にも役立ちます。
今回は、「prae-」を前綴りとするラテン語動詞をご紹介します。これらの動詞の多くは、英語・イタリア語・スペイン語・ポルトガル語では「pre-」を前綴りとする動詞、フランス語では「pré-」を前綴りとする動詞として受け継がれています。
「prae-」は「前に・先に・あらかじめ・他よりも(vor, im Voraus, vorher)」という意味の前綴りです。場所的に「前に」を表すこともあれば、時間的に「先に」「前もって」を表すこともあり、さらに比較の意味で「他より上に」「他に優って」を表すこともあります。したがって、prae- の付いた動詞は、しばしば「先回りする」「予見する」「前置する」「優先する」「任命する」「指揮する」といった意味を帯びます。
praebeo, praebui, praebitum, praebere
prae-(前に)+habere(持つ)が約まったもの。つまり、「前に差し出す」、「提供する」、「与える」、「供与する」。英語の provide に近い場面でも用いられるが、文字通りには「手前に持って出す」という感覚である。ここから派生した名詞 praebita なども見られる。
praecaveo, praecavi, praecautum, praecavere
prae-(あらかじめ)+cavere(用心する)。つまり、「前もって警戒する」、「用心する」、「予防する」。危険を未然に避けるという意味であり、今日の英語 precaution、フランス語 précaution、イタリア語 precauzione、スペイン語 precaución などの語と同系である。ラテン語の名詞 praecautio は「予防」「用心」を意味する。
praecedo, praecessi, praecessum, praecedere
prae-(前に)+cedere(進む、行く)。つまり、「先に進む」、「前を行く」、「先行する」。場所的には「前を歩く」、時間的には「先立つ」、抽象的には「先行条件となる」という意味にもなる。英語 precede、フランス語 précéder、イタリア語 precedere、スペイン語 preceder はここから来ている。名詞 praecessio は「先行」である。
praecingo, praecinxi, praecinctum, praecingere
prae-(前に、周囲に)+cingere(巻く、帯びる)。つまり、「前から巻く」、「帯びる」、「取り囲むように締める」。衣服や帯との関係で用いられることが多く、身体の前面から締めるという具体的なニュアンスがある。名詞 praecinctus は「帯を締めた状態」を表す。
praecipio, praecepi, praeceptum, praecipere
prae-(先に)+capere(取る)。つまり、「先取りする」、「予想する」。また、相手の行動を先取りするということで、「命じる」、「指示する」、「教訓を与える」。ここから、イタリア語の「precetto」、スペイン語の「precepto」、フランス語の「précepte」、英語の「precept」は生じた(いずれも名詞)。また、praeceptum は「教訓」「命令」「戒め」を意味し、法学・道徳・神学でもよく用いられる。
praecludo, praeclusi, praeclusum, praecludere
prae-(前で)+claudere(閉じる)。つまり、「前をふさぐ」、「閉ざす」、「妨げる」。通路や可能性を前もって閉じるという意味から、「排除する」「遮断する」の意にもなる。英語 preclude はここから来ている。すなわち、「先に閉じてしまって、余地をなくす」という感覚である。
praecognosco, praecognovi, praecognitum, praecognoscere
prae-(あらかじめ)+cognoscere(知る)。つまり、「前もって知る」、「予知する」、「事前に認識する」。法律や哲学の文脈では、「予備的に知る」「先験的に把握する」といった訳も可能である。名詞 praecognitio は「予備知識」「先行認識」を意味し、後代ラテン語や学術ラテン語で重要である。
praedico, praedixi, praedictum, praedicere
prae-(前もって)+dicere(言う)。つまり、「前もって言う」、「予告する」、「予言する」。また、文脈によっては「公に言い広める」、「言い表す」という意味もある。英語 predict、フランス語 prédire、イタリア語 predire(ただし現代ではあまり一般的でない)、スペイン語 predecir はここから来ている。名詞 praedictio は「予言」「予測」である。
praeeo, praeii(または praivi), praeitum, praeire
prae-(前に)+ire(行く)。つまり、「先に行く」、「先導する」、「前を行く」。宗教儀礼・朗誦・合唱などでは、「先に唱える」「先唱する」という意味もある。また、比喩的には「模範を示す」「先例となる」という意味にもなる。英語 prelude とは直接同語ではないが、「先立つ」という意味領域で近い。
praefari, praefatus sum, -, praefari
prae-(先に)+fari(語る)。つまり、「前もって語る」、「前置きする」、「序言を述べる」。ここから、英語 preface、フランス語 préface、イタリア語 prefazione、スペイン語 prefacio は生じた。原義としては、「本文に先立って述べる」である。名詞 praefatio は「序文」「前置き」であり、典礼文でも重要な語である。
praefero, praetuli, praelatum, praeferre
prae-(前に)+ferre(運ぶ)。文字通り「前に運ぶ」。或るもの(対格)を或るもの(与格)の前に運ぶ、というところから、抽象化して「(対格)を(与格)より好む」、「優先する」という意味が出てきた。今日残っているのはもっぱらこちらのほうで、イタリア語の「preferire」、スペイン語の「preferir」、フランス語の「préférer」、英語の「prefer」である。ドイツ語では「vorziehen」(ziehen:引く)といい、現在でも与格と対格で表現する発想が近い。
praeficio, praefeci, praefectum, praeficere
prae-(前に)+facio(する)。つまり、「前に置く」、「長に任ずる」、「指揮官にする」、「リーダーにする」。受動分詞 praefectus は「任命された長官・長」を意味し、ローマ帝政の官職名としても重要である。そこから名詞 praefectura(長官職、管区)が生じ、イタリア語の「prefettura」、スペイン語の「prefectura」、フランス語の「préfecture」、ドイツ語の「Präfektur」、英語の「prefecture」はここから来ている。人をある職務に就けるときには、しばしば aliquem rei praeficere 「誰かを何かの長に任ずる」という構文を取る。
praefigo, praefixi, praefixum, praefigere
prae-(前に)+figere(打ちつける、固定する)。つまり、「前に付ける」、「前もって掲げる」、「前置する」。そこから、文法用語としての「接頭辞」の意をもつ praefixum(後代・学術ラテン語)が発達した。英語 prefix、フランス語 préfixe、イタリア語 prefisso、スペイン語 prefijo はここから来ている。文字通りには「前に打ち付けたもの」である。
praefinio, praefinivi, praefinitum, praefinire
prae-(前もって)+finire(限界を定める)。つまり、「あらかじめ限定する」、「前もって定める」、「予定する」。境界・期限・条件を先に引いておくという意味で、法文や論証でも使いやすい語である。名詞 praefinitio は「事前規定」「前置きの限定」といった意味を帯びる。
praefulgeo, praefulsi, -, praefulgere
prae-(前に、ひときわ)+fulgere(輝く)。つまり、「ひときわ輝く」、「前面で輝く」、「抜きん出て光る」。比喩的には「卓越する」「際立つ」に近い。比較的文語的・修辞的な語である。
praemitto, praemisi, praemissum, praemittere
prae-(先に)+mittere(送る)。つまり、「前もって送る」、「先発させる」、「先に出す」。人員・使者・軍隊を先に遣わすこともあれば、文章の中で「前置きとして述べる」という意味になることもある。英語 premise のうち「前提」という語義は、ラテン語の「前もって置かれた事柄」という発想と関係があるが、直接には praemissa などの名詞形を介する。
praemoneo, praemonui, praemonitum, praemonere
prae-(あらかじめ)+monere(警告する、注意する)。つまり、「前もって警告する」、「注意を与える」、「あらかじめ知らせる」。英語 premonition、フランス語 prémonition などの背景にある語である。名詞 praemonitio は「予告」「前兆」「予感」を意味しうる。
praenuntio, praenuntiavi, praenuntiatum, praenuntiare
prae-(前もって)+nuntiare(知らせる)。つまり、「予告する」、「前触れを告げる」、「前もって知らせる」。宗教的文脈では「予示する」、一般文では「事前通告する」に近い。名詞 praenuntius は「前触れするもの」「前兆」である。
praeoccupo, praeoccupavi, praeoccupatum, praeoccupare
prae-(先に)+occupare(占める)。つまり、「先取りする」、「先に占有する」、「先手を打つ」。議論・反論・場所・地位などを「相手より先に取ってしまう」という発想である。英語 preoccupy は今日では「心を奪う」「気を取らせる」の意味が強いが、もともとは「先に占める」である。
praeparo, praeparavi, praeparatum, praeparare
prae-(前もって)+parare(準備する)。つまり、「準備する」、「用意する」、「整える」。英語 prepare、フランス語 préparer、イタリア語 preparare、スペイン語 preparar はここから来ている。最も分かりやすい prae- 動詞の一つであり、「前もって調える」という原義がよく見える。
praepedio, praepedivi(または praepedii), praepeditum, praepedire
prae-(前に)+pes, pedis(足)に由来する動詞で、文字通りには「足を前で絡める」、「足かせをはめる」。そこから、「妨げる」、「足止めする」、「進行を阻む」という意味になる。前に進めないように足元を拘束するイメージである。
praepono, praeposui, praepositum, praeponere
prae-(前に)+ponere(置く)。つまり、「前に置く」、「上位に置く」、「優先する」。具体的には、或るものを他のものより前位に置くこと、抽象的には「重視する」「優先する」である。英語 preposition の position 部分とは同根であり、また praepositus は「長」「監督者」を意味する。中世ラテン語や教会ラテン語でもよく見られる。
praescribo, praescripsi, praescriptum, praescribere
prae-(前に)+scribere(書く)。つまり、「前もって書く」、「前書きを付す」、「規定する」、「命ずる」。法律では「規定する」「指図する」という意味が特に重要であり、またローマ法では praescriptio が技術的な法用語となる。英語 prescribe、フランス語 prescrire、イタリア語 prescrivere、スペイン語 prescribir はここから来ている。現代語では「処方する」という意味もあるが、これは「前もって書き与える」ことから来た。
praesideo, praesedi, -, praesidere
prae-(前に)+sedere(座る)。つまり、「前に座る」、「議長席に着く」、「指揮する」、「保護する」。会議や法廷では「議長を務める」、軍事・政治では「監督する」「統率する」に近い。英語 preside、フランス語 présider はここから来ている。名詞 praeses は「長官」「議長」である。
praesigno, praesignavi, praesignatum, praesignare
prae-(前もって)+signare(印を付ける)。つまり、「あらかじめ印を付ける」、「前もって封印する」、「予示する」。文書や容器などに先にしるしを付けることから、「前兆として示す」という比喩的意味も生じうる。
praesto, praestiti, praestitum(praestaturus), praestare
prae-(前に)+stare(立つ)。つまり、「前に立つ」。ここから抽象化して「抜きん出る」、「他の人(与格)より優れる」、「示す」、「提供する」、「果たす」という意味になる。ラテン語では非常に多義的で、auxilium praestare なら「援助を与える」、fidem praestare なら「保証する・誠実さを示す」、ceteris praestare なら「他に勝る」である。前に立って目立つ、前に立って支える、という両方の感覚がある。
praestolor, praestolatus sum, -, praestolari
prae-(前で)+stolare / 立ち止まる趣の語根と考えられ、「前に立って待つ」、「待ち受ける」、「待機する」。単に「待つ」ではなく、来るものを前で迎えるようなニュアンスがある。受動相動詞(デポネント)である。
praesum, praefui, -, praeesse
prae-(前に)+esse(いる)。つまり、「前にいる」、「長である」、「指揮する」、「支配する」。rei publicae praeesse といえば「国家を指導する」である。praeficere が「長に任命する」であるのに対し、praeesse は「実際に長としてその上に立っている」ことを表す。名詞 praeses や praesidium と近い語群である。
praesumo, praesumpsi, praesumptum, praesumere
prae-(先に)+sumere(取る)。つまり、「先取りする」、「先に想定する」、「推定する」、「当然視する」。証拠や議論に先立ってあることを取ってしまう、という意味であり、英語 presume、フランス語 présumer、イタリア語 presumere、スペイン語 presumir の源である。名詞 praesumptio は法学でも重要で、「推定」を意味する。
praetendo, praetendi, praetentum, praetendere
prae-(前に)+tendere(張る)。つまり、「前に張る」、「前に広げる」。そこから、「口実として前面に出す」、「主張する」、「見せかける」という意味にもなる。英語 pretend はここから来ているが、英語では「ふりをする」の意味が強くなった。ラテン語本来の感覚としては、何かを前に張り出して見せることである。
praetexo, praetexui(または praetexsi), praetextum, praetexere
prae-(前に、縁に)+texere(織る)。つまり、「縁取りをする」、「前面に織り込む」、「上辺を取り繕う」。衣服の縁飾りとの関係で有名で、toga praetexta(縁飾り付きトガ)という語に残る。また、比喩的には「口実をこしらえる」という意味にもなる。英語 pretext はここから来ている。
praevaleo, praevalui, -, praevalere
prae-(他よりも)+valere(強い、力がある)。つまり、「より強い」、「優勢である」、「勝る」。比較の意味の prae- が明瞭に出た動詞である。英語 prevail、フランス語 prévaloir はここから来ている。議論・力関係・慣行などが「優勢を占める」ことにも用いられる。
praevenio, praeveni, praeventum, praevenire
prae-(先に)+venire(来る)。つまり、「先に来る」、「先回りする」、「未然に防ぐ」。相手より先に来ることから、「先手を打つ」、「予防する」という意味が生じる。英語 prevent はここから来ているが、現代英語では「防ぐ」の意味が中心で、ラテン語の「先に来る」という原義は見えにくくなっている。フランス語 prévenir はなお「予告する」「警告する」の意味も保っている。
praeverto, praeverti, praeversum, praevertere
prae-(先に)+vertere(向ける、回す)。つまり、「先に向ける」、「先んじる」、「先回りする」。相手より早く行動を向けることから、「先制する」に近い意味を帯びることもある。英語 prevert は一般的ではないが、意味構造としては prevent と近接する。
praevideo, praevidi, praevisum, praevidere
prae-(前もって)+videre(見る)。つまり、「予見する」、「前もって見る」、「見通す」。英語 provide と形が似ているが語源は別で、こちらは英語 preview や foresight に近い。直接の派生語としては、英語 provide ではなく prevision、フランス語 prévoir、イタリア語 prevedere、スペイン語 prever がある。未来をあらかじめ視野に入れるという、きわめて分かりやすい構造である。
このように見ると、prae- は単に「前」という空間的意味だけでなく、少なくとも次の四つの方向に意味を広げることが分かります。
- 場所的に前に置く
例:praefero(前に運ぶ)、praepono(前に置く)、praefigo(前に付ける) - 時間的に先んじる・あらかじめする
例:praecaveo(予防する)、praevideo(予見する)、praemoneo(前もって警告する)、praeparo(準備する) - 他より上に置く・優先する
例:praefero(より好む)、praevaleo(優勢である)、praesto(抜きん出る) - 前に立って支配する・指揮する
例:praeesse(長である)、praeficere(長に任命する)、praesidere(議長を務める)
したがって、prae- はドイツ語の vor- にかなり近いものの、単なる位置関係にとどまらず、先取り・予見・優越・統率という抽象的な意味まで広げる力をもつ前綴りだと言えます。

