以下に、ラテン語の暦の月名をまとめておきます。ラテン語については、ここでは 単数主格形 を示します。また、現代語との関連もあわせて示します。
もっとも、ラテン語の月名を理解するうえで最も大切なのは、現在の月順と月名の語源とが、必ずしも一致していないという点です。とくに September, October, November, December がそれぞれ「七、八、九、十」に由来するのに、現在では九月、十月、十一月、十二月を意味しているのは、その代表例です。これは単なる偶然ではなく、ローマ暦の出発点がもともと三月にあったこと、そしてその後に一月と二月が加えられ、さらに年の始まりが一月へ移されたことの結果です。つまり、月名の多くは古い暦の順序を保存しているが、年の始まりだけが後から動いたために、語源と現在の順番にずれが生じたのです。
ブリタニカによれば、初期ローマ暦は三月に始まる十か月制で、Martius, Aprilis, Maius, Iunius, Quintilis, Sextilis, September, October, November, December から成っていました。その後、伝承上はヌマ王により Ianuarius と Februarius が加えられて十二か月制となり、さらに共和政期には一月一日が公的な年初として用いられるようになりました。特に 紀元前153年 に執政官の任期開始日が一月一日に移ったことにより、一月が事実上の年初として定着し、これが後のユリウス暦にも引き継がれました。したがって、「月名は古いまま、年初だけが変わった」ことこそが、ずれの核心です。
この観点を踏まえると、七月以前の月には神名や季節的連想に由来する名が多く、七月以後には古い序数に由来する名が目立つことも理解しやすくなります。さらに、後には Quintilis と Sextilis が、それぞれ Iulius と Augustus に改称され、政治的記憶まで月名の中に刻み込まれることになりました。
(mensis) Ianuarius (m.)
男神ヤーヌス(Ianus)の月。
現在では一月を意味します。ヤーヌスは門・出入り口・始まりを司る神であり、過去と未来の両方を見渡す二面神として知られます。そのため、年の入口に置かれる月としては非常にふさわしい名であったといえます。ブリタニカも January の名を Janus に由来するとしています。
もっとも、重要なのは、一月が最初から年初だったわけではないという点です。初期ローマ暦では年は三月に始まりましたが、のちに一月が年初として採用され、遅くとも紀元前153年までには公的な年初が一月一日になっていたとされます。したがって、Ianuarius は「年の入口」にふさわしい名前でありながら、実際にその位置を獲得したのは暦の後期的発展の中であった、ということになります。
現代語では、イタリア語 gennaio、スペイン語 enero、フランス語 janvier、ドイツ語 Januar、英語 January に相当します。音形の変化はさまざまですが、いずれもラテン語 Ianuarius を起点としています。
(mensis) Februarius (m.)
清め・浄化の月。
現在では二月を意味します。語源は、ローマの浄めの祭儀である Februa / Februalia に求められるのが一般的です。ブリタニカも February は purification の祭に由来するとしています。したがって、この月名は特定の神名というより、年の変わり目に行われる清めの儀礼と深く結びついています。
ここでも「ずれ」の歴史が重要です。Februarius は、もともと年末に置かれていた月でした。つまり、清めの祭儀が年の終わりに行われ、その月が後に現在の二月の位置へ移ったのです。ブリタニカは、ヌマ王が January を年頭に、February を年末に加え、その後 紀元前452年に February が January と March の間に移されたと述べています。したがって、二月が短く、またどこか「年末処理」の名残を帯びているように感じられるのは、単なる偶然ではなく、古い暦の痕跡ともいえます。
現代語では、イタリア語 febbraio、スペイン語 febrero、フランス語 février、ドイツ語 Februar、英語 February に相当します。
(mensis) Martius (m.)
軍神マルス(Mars)の月。
もともと年の第一の月でした。ローマの古い暦が三月始まりであったことを考えると、これは非常に自然です。マルスは軍神であると同時に、古いローマでは農耕とも結びつく神格を持っており、春の始まりとともに戦争と農事の季節が再開することを象徴していました。初期ローマ暦が三月を年初としたことは、ブリタニカも明示しています。
したがって、Martius が現在では三月であること自体は、実はずれていないともいえます。むしろ、この月だけが古い年初の位置を今も保っているのです。ただし、年の第一月としての地位は、後に Ianuarius に譲ることになりました。ここに、ローマ暦の変遷がもっとも鮮明に表れています。
現代語では、イタリア語 marzo、スペイン語 marzo、フランス語 mars、ドイツ語 März、英語 March に相当します。
(mensis) Aprilis (m.)
四月。
もともとは年の第二の月でしたが、後に第四の月となりました。したがって、この月もまた、月名そのものは古い位置を記憶している月の一つです。
Aprilis の語源については、古代以来議論があり、必ずしも確定していません。ブリタニカは、一般的な説明として aperire(開く)に由来し、春に草木の芽が開くことに関係づけられるとしています。もしこの説明を採るなら、Aprilis は春の本格化を示す季節名的な月名ということになります。もっとも、他説もあるため、ここは**「おそらく」**と留保して理解するのが穏当です。
現代語では、イタリア語 aprile、スペイン語 abril、フランス語 avril、ドイツ語 April、英語 April に相当します。
(mensis) Maius (m.)
女神マーヤ(Maia)の月。
もともとは年の第三の月でしたが、のちに第五の月に移りました。Maius の名は、一般に女神 Maia に由来すると説明されます。ブリタニカも May は Maia にちなんで名づけられたとしています。
ここでも「ずれ」は、一月・二月の挿入と年初移動の結果です。Maius 自体の名は古く、春から初夏へ向かう季節感と結びついていましたが、年の冒頭に二か月が付け加わったため、古い第三月が現在の五月へと押し下げられたのです。月名自体は変わらないのに、位置だけが後ろへ動いたという点で、September などと同じ構造を共有しています。
現代語では、イタリア語 maggio、スペイン語 mayo、フランス語 mai、ドイツ語 Mai、英語 May に相当します。
(mensis) Iunius (m.)
女神ユーノー(Iuno)の月。
もともとは年の第四の月でしたが、後に第六の月となりました。June の名は、一般に女神 Juno に由来するとされ、ブリタニカもそのように説明しています。ユーノーは婚姻・出産・女性保護と結びつく女神であり、この月が結婚に吉とされる観念にもつながっています。
この月もまた、古い四月相当の位置から現在の六月へと移されたものです。したがって、March から June までの四か月は、もともと古いローマ暦の年初を構成していた中核的な月々であり、そこへ一月・二月が前置された結果、そろって二か月ずつ後ろへずれたことになります。
現代語では、イタリア語 giugno、スペイン語 junio、フランス語 juin、ドイツ語 Juni、英語 June に相当します。
(mensis) Quintilis (m.) → (mensis) Iulius
もともと「第五の月」。のちに「ユリウスの月」。
Quintilis は、文字どおり quintus(第五)に由来し、もともと年の第五の月でした。これが現在の七月に当たるのは、March 始まりの古い暦に一月・二月が前置されたためです。したがって、七月なのに「第五月」という古い名を持っていたこと自体が、暦史のずれをそのまま示しています。
さらにこの月は、紀元前44年にユリウス・カエサル(Iulius Caesar)を讃えて Iulius に改称されました。ブリタニカも、July の原名が Quintilis であり、44 BCE に Caesar を記念して改称されたと述べています。ここでは、古い序数的名称が政治的顕彰によって置き換えられたことになります。つまり、ローマ暦の月名には、古い年次秩序の記憶と、後代の政治的記念とが重なっているのです。
現代語では、イタリア語 luglio、スペイン語 julio、フランス語 juillet、ドイツ語 Juli、英語 July に相当します。
(mensis) Sextilis (m.) → (mensis) Augustus
もともと「第六の月」。のちに「アウグストゥスの月」。
Sextilis は sex / sextus(六)に由来し、古い暦では第六の月でした。現在の八月がこれに当たるのも、やはり前に二か月が付け加わったためです。したがって、七月の旧名 Quintilis と同様、Sextilis もまた古い順序を保存する名称でした。
その後、紀元前8年にアウグストゥス(Augustus)を讃えて Augustus に改称されました。ブリタニカは、この改称が 8 BCE に行われたとしています。これによって、五番目・六番目という無機的な序数名だった二つの月が、ローマ国家の二大指導者の名を帯びることになりました。つまり、月名の「ずれ」は単に古暦の名残ではなく、途中で政治的上書きまで受けた結果なのです。
現代語では、イタリア語 agosto、スペイン語 agosto、フランス語 août、ドイツ語 August、英語 August に相当します。
(mensis) September (m.)
もともと第七の月。
語源は septem(七)です。したがって、現在の九月を意味しながら、名前そのものは「第七月」を意味しています。このずれは、ラテン語の月名の中でも最もよく知られた例の一つです。ブリティッシュ・ミュージアムも、September はもともと第七の月だったと説明しています。
なぜこうなったかは、すでに述べたとおり、年がもともと三月に始まっていたからです。そこへ一月と二月が加わって前に移されたため、旧第七月が現在の第九月になりました。つまり September は、古代ローマの年初が三月であったことを、名前そのものによって今日まで伝えている月なのです。
現代語では、イタリア語 settembre、スペイン語 septiembre、フランス語 septembre、ドイツ語 September、英語 September に相当します。
(mensis) October (m.)
もともと第八の月。
語源は octo(八)です。現在では十月ですが、名は「第八月」を意味します。これも September と同じく、古い年初が三月であったことの生きた証拠です。
こうした月名が改称されずに残ったため、現代の学習者には「なぜ October が十月なのに octo なのか」という疑問が生じます。しかしそれは誤りではなく、むしろ月名が保守的で、古い制度の痕跡をよく残すことを示しています。歴史言語学的に見れば、制度が変わっても語彙がそのまま残る例の好例です。
現代語では、イタリア語 ottobre、スペイン語 octubre、フランス語 octobre、ドイツ語 Oktober、英語 October に相当します。
(mensis) November (m.)
もともと第九の月。
語源は novem(九)です。現在は十一月ですが、古い暦では第九月でした。したがって、November もまた、二か月分のずれをそのまま保存している月名です。
この月名も、September や October と同じく、改称を受けなかったため、古い序数的名称がそのまま現代語へ伝わりました。逆に言えば、七月と八月だけが政治的改称を受けたため、九月以降の名称の「古さ」がいっそう際立って見えるのです。
現代語では、イタリア語 novembre、スペイン語 noviembre、フランス語 novembre、ドイツ語 November、英語 November に相当します。
(mensis) December (m.)
もともと第十の月。
語源は decem(十)です。現在では十二月ですが、古いローマ暦では第十月でした。初期ローマ暦が十か月制で December で終わっていたことを考えると、この名前は当初きわめて合理的だったことが分かります。ブリタニカも、初期ローマ暦は December で終わっていたと述べています。
しかし、一月・二月の追加と年初移動の結果、December は年末の位置は保ちながらも、「第十月」という語源と「第十二月」という実際の位置とが食い違うことになりました。つまり December は、古い十か月制暦の最後の名残を、現代の十二か月制の中に抱え込んでいる月だといえます。
現代語では、イタリア語 dicembre、スペイン語 diciembre、フランス語 décembre、ドイツ語 Dezember、英語 December に相当します。
- (mensis) Ianuarius (m.)
- (mensis) Februarius (m.)
- (mensis) Martius (m.)
- (mensis) Aprilis (m.)
- (mensis) Maius (m.)
- (mensis) Iunius (m.)
- (mensis) Quintilis (m.) → (mensis) Iulius
- (mensis) Sextilis (m.) → (mensis) Augustus
- (mensis) September (m.)
- (mensis) October (m.)
- (mensis) November (m.)
- (mensis) December (m.)
- まとめ──なぜ月名と月順がずれたのか
まとめ──なぜ月名と月順がずれたのか
要するに、ラテン語の月名のずれは、古いローマ暦が三月始まりだったことに由来します。そこでは Quintilis は本当に第五の月であり、September は本当に第七の月でした。ところが、その後 Ianuarius と Februarius が前方に組み込まれ、さらに 紀元前153年には一月一日が公的な年初として定着したため、旧来の月名だけが取り残されるかたちになりました。
その結果、現代の月名の中には、①神名に由来する古い宗教的記憶(Ianuarius, Martius, Maius, Iunius)、②数に由来する古い順序の記憶(September–December)、③政治的改称の記憶(Iulius, Augustus)
が折り重なって残っています。ラテン語の月名は、単なる名称ではなく、ローマ暦の歴史そのものを保存した化石のような語彙である、といってよいでしょう。

