ラテン語の天文学(astronomia)用語を集めてみました。格変化に便利なように、単数主格形・単数属格形・性を添えておきます。ラテン語の天文学語彙には、ローマ人が古くから持っていた日常語・宗教語だけでなく、ギリシア語から学術語として受容された語も少なくありません。とくに -es, -as で終わる男性名詞には、ギリシア語系の借用語が多く見られます。また、planeta のように -a で終わっていても男性名詞である語があるので注意が必要です。これはラテン語が、ギリシア語の学問語彙をかなりまとまった形で受け入れたことの痕跡です。
古代世界では、天文学と占星術は今日ほど厳密には分かれておらず、惑星・恒星・黄道十二宮・曜日は同じ宇宙観の中で理解されていました。たとえば、曜日名の dies Martis, dies Mercurii, dies Iovis, dies Veneris は、そのまま Mars, Mercurius, Iuppiter, Venus という惑星名と対応していますし、黄道十二宮もまた、太陽・月・惑星が通る黄道帯の区分として理解されていました。つまり、曜日名・星座名・惑星名は、ばらばらの語彙ではなく、古代の一つの天体観の中で互いに結びついていたのです。
以下では、主要な語をいくつかの群に分けながら見ていきます。
- 1 星・銀河
- 2 太陽系(曜日)
- Sol, Solis (m.)
- Luna, Lunae (f.)
- Mercurius, Mercurii (m.)
- Venus, Veneris (f.)
- Hesperus, Hesperi (m.)
- Mars, Martis (m.)
- Iuppiter, Iovis (m.)
- Saturnus, Saturni (m.)
- Uranus, Urani (m.) / Neptunus, Neptuni (m.) / Pluto, Plutonis (m.)
- Tellus, Telluris (f.)
- terra, terrae (f.)
- satelles, satellitis (m. / しばしばf.とも扱われる)
- Io, Ius (f.) / Europa, Europae (f.)
- 3 食・子午線
1 星・銀河
astrum, astri (n.)
恒星。星。
ラテン語の astrum は、ギリシア語 astron に対応する語で、広く「星」「天体」を意味します。文脈によっては、現代的な意味での「恒星」に近く理解されることもありますが、古典語としては必ずしも厳密な自然科学的区別を含みません。むしろ「天にある輝くもの」を総称する語と考えるほうが自然です。語源的には、英語 astronomy, asterisk, astral などに連なる重要な語根です。
stella, stellae (f.)
星。
astrum と並んで「星」を意味する基本語です。一般には stella のほうが日常的・視覚的な「星」に近く、astrum がやや文学的・学術的・運命論的な響きを帯びることがあります。現代語でも、イタリア語 stella、フランス語 étoile とは別系統ですが、英語 stellar はこのラテン語に由来します。つまり、ラテン語には「星」を表す語が一つだけでなく、stella と astrum という二つの中心語があったわけです。
sidus, sideris (n.)
星座。星。天体。
あなたの原稿では「星座」と説明されていますが、古典ラテン語の sidus は、より広く「星」「星群」「星座」「天象」を意味し得る語です。そこから転じて、「季節を告げる星」「運命を示す星」といった含みも帯びます。英語 sidereal(恒星の、恒星時の)はこの語に由来します。したがって、sidus は単なる「一つの星」ではなく、天文学と占星術のあいだをつなぐ語といえるでしょう。
planeta, planetae (m.)
惑星。
これはギリシア語由来の学術語で、もともとは「さまようもの」を意味します。古代人にとって、恒星は天球上で相対的に固定されて見えましたが、惑星はその背景に対して位置を変えるため、「遊星」「さまよう星」と理解されたのです。語尾が -a で終わるため女性名詞に見えますが、男性名詞です。ここに、ギリシア語由来名詞の特徴がよく表れています。黄道十二宮と惑星が古代に密接に結びついていたことを思えば、この語は古代宇宙観の中心語の一つです。
planetula, planetulae (m.)
矮惑星。小惑星的な小さな惑星。
形の上では planeta に指小辞 -ula を加えた語で、「小さな惑星」という意味になります。古典古代そのものの基本語というより、近代以降のラテン語化された学術語として理解するのが自然でしょう。こうした語は、新しい科学概念をラテン語で表そうとするときに、古典語の語形成法を用いて作られることが多く、その意味で「生きているラテン語」の一面を示しています。
asteroides, asteroidae (m.)
小惑星。
これもギリシア語由来の学術語で、「星のようなもの」という意味です。近代天文学で asteroid が命名されたとき、その語源にはギリシア語系の語形成が使われました。ラテン語として扱うと asteroides のような形になります。終わりが -es で、しかも男性名詞というのは、ギリシア語借用語らしい特徴です。現代語 asteroid との対応も分かりやすいでしょう。
galaxias, galaxiae (m.)
銀河。
これもギリシア語由来の語です。語源はギリシア語 galaxias「乳のような」にあり、天の川が白く乳を流したように見えることから名づけられました。現代英語 galaxy も、中世ラテン語・フランス語を経由してこの語に由来します。つまり、「銀河」という現代的な宇宙構造の名称の中にも、古代人の視覚的比喩が生き続けているのです。
nebula, nebulae (f.)
星雲。霧。
nebula はもともと「霧」「霞」を意味するラテン語です。近代天文学では、ぼんやりと雲のように見える天体を指して「星雲」の意味で使われるようになりました。つまり、これは日常語が学術語へ転用された例です。語源を知ると、星雲が「雲のようなもの」として把握されたことがよく分かります。
cometes, cometae (m.)
彗星。
これもギリシア語系の語で、もともとは「髪の長いもの」「髪をなびかせたもの」という意味に由来します。彗星の尾が髪の毛のように見えたためです。現代語 comet もここから来ています。つまり、彗星とは「毛のある星」「髪を引く星」として見られていたのであり、古代人の命名がいかに図像的であったかが分かります。
2 太陽系(曜日)
Sol, Solis (m.)
太陽。
ラテン語 Sol は、天体としての太陽であると同時に、神格化された太陽神でもあります。曜日名の dies Solis はまさに「太陽の日」で、英語 Sunday やドイツ語 Sonntag と思想的に同じです。したがって、Sol は単なる天体名ではなく、暦法・宗教・曜日名と深く結びついた語です。
Luna, Lunae (f.)
月。地球の衛星。
Luna もまた、天体であると同時に月の女神です。曜日名 dies Lunae は「月の日」であり、フランス語 lundi、スペイン語 lunes などにそのまま受け継がれています。太陽と月が、曜日体系の中で特別な位置を占めていることは、古代人の宇宙観の中でこの二つが際立った存在だったことを物語っています。
Mercurius, Mercurii (m.)
水星。
ラテン語では、商業神 Mercurius の名がそのまま惑星名になっています。曜日名 dies Mercurii はこれに由来し、フランス語 mercredi などに痕跡が残ります。英語 Wednesday がこれと異なるのは、ゲルマン世界で Woden に置き換えられたためでした。つまり、天文学用語としての Mercurius は、曜日名の歴史にもそのままつながっています。
Venus, Veneris (f.)
金星。
金星は古代において特に重要な惑星で、明けの明星・宵の明星として強い印象を与えました。ラテン語では女神 Venus の名がそのまま惑星名になっています。曜日名 dies Veneris は金曜日であり、フランス語 vendredi、スペイン語 viernes などに残っています。金星は美しく輝くため、愛の女神の名が与えられたのだと考えるのが自然です。
Hesperus, Hesperi (m.)
宵の明星。
これは金星が夕方に見えるときの呼び名です。ブリタニカも、Hesperus は evening star であり、後には morning star と同じ惑星 Venus だと理解されるようになったと説明しています。古代人は、明け方に現れる金星と、夕方に現れる金星とを、当初は別の星と見ていた時期がありました。したがって、Hesperus は単なる別名ではなく、天文学史における認識の変化を示す語でもあります。さらに Hesperia が「西方の地」、ときにイタリアやヒスパニアを指す語になったのは、「夕べ」「西方」と結びつく語感の延長上にあります。
Mars, Martis (m.)
火星。
軍神 Mars の名がそのまま惑星名になったものです。曜日名 dies Martis は火曜日に当たり、ロマンス諸語にそのまま残っています。火星の赤い色と戦神との結びつきは、古代人にとって直感的だったのでしょう。
Iuppiter, Iovis (m.)
木星。
Iuppiter は主格、Iovis はその属格で、曜日名 dies Iovis に現れる形です。最高神の名が、最大の惑星に与えられている点が象徴的です。木曜日とのつながりを思い出せば、この語は天文学語であると同時に暦語でもあります。
Saturnus, Saturni (m.)
土星。
土星は農耕神 Saturnus の名を持つ惑星で、曜日名 dies Saturni に対応します。英語 Saturday はこの系統を比較的よく保存しています。土曜日だけが英語でローマ神名をかなり直接に残していることは、曜日史の蘊蓄としてよく知られています。
Uranus, Urani (m.) / Neptunus, Neptuni (m.) / Pluto, Plutonis (m.)
天王星・海王星・冥王星。
これらは古典古代に肉眼で知られていた七天体の外側にあるため、曜日名とは結びつきません。つまり、曜日体系に出てくるのは肉眼で見える七天体だけであり、Uranus・Neptunus・Pluto は近代天文学の発見に伴って、神話的命名法を踏襲して付けられた新しい惑星名なのです。この点は、古代の宇宙観と近代天文学との断絶と連続の両方を感じさせます。
Tellus, Telluris (f.)
地球。大地。
Tellus は「大地」を意味し、ローマ神話では地母神的な性格も帯びます。現代的な「惑星としての地球」をラテン語で表す場合には Terra と並んで使われることがありますが、Tellus のほうがやや神話的・文学的です。英語 telluric はこの語に由来します。
terra, terrae (f.)
地面。大地。地球。
こちらは日常的な「地面」「土地」の語であり、そこから「地球」の意味にも広がります。現代ヨーロッパ語の terre, tierra, terra などに広く残っている、きわめて基本的な語です。ラテン語で「地球」をどう呼ぶかというとき、Tellus がやや神格的、terra がやや一般語的、と見ると分かりやすいでしょう。
satelles, satellitis (m. / しばしばf.とも扱われる)
衛星。随伴者。
古典ラテン語では、もともと「護衛」「付き従う者」を意味しました。そこから近代天文学で、ある天体に付き従って回る小天体、すなわち「衛星」の意味に転用されました。現代英語 satellite もこの語に由来します。これは、政治的・社会的な語が天文学語へ転用された好例です。
Io, Ius (f.) / Europa, Europae (f.)
イオ、エウロパ。
いずれも木星の衛星名としてよく知られています。これらはガリレオ衛星の名称群に属し、ギリシア・ローマ神話の人物名から取られています。つまり、近代天文学は新しい天体を発見したとき、まったく新語を作るのではなく、古典神話の固有名を再利用するという方法を選んだのです。ここにも、古典語が近代科学の命名法の中に生き続けている様子が見られます。
3 食・子午線
defectio Lunae, defectionis Lunae (f.)
月蝕(月食)。
文字どおりには「月の欠損」「月の衰え」です。defectio は「欠けること、衰えること」を意味し、月が暗くなる現象をそのまま語っています。古代人の表現では、食は「光が食われる」というより、「光が欠ける・失われる」と把握されたのです。
defectio Solis, defectionis Solis (f.)
日蝕(日食)。
こちらも同様に「太陽の欠損」です。太陽と月は曜日体系とも結びつくため、食の語彙もまた、天体信仰・暦法・観測の接点にあります。古代人にとって日食・月食は単なる自然現象ではなく、しばしば不吉な徴ともみなされました。
meridianus, meridiani (m.)
子午線。経線。
これは meridies(正午、南)に由来します。太陽が南中する方向が「南」であり、そこから「正午」と「南」とが同じ語で表されるのです。したがって meridianus は、本来「正午の」「南の」という意味から出発し、後に「子午線」「経線」の意味を担うようになりました。現代英語 meridian もこの語に由来します。語源を知ると、方角・時刻・天文学が一つの語でつながっていることがよく分かります。
pumilio alba, pumilionis albae (f.)
白色矮星。
これは近代的なラテン語訳語です。pumilio は「小人」、alba は「白い」。したがって文字どおりには「白い小人」です。現代天文学の概念をラテン語に移し替えるとき、古典語の既存語彙をどう組み合わせるかがよく表れていて、なかなか面白い語です。
黄道十二宮とのつながり
天文学語彙を学ぶうえで、黄道十二宮の名称も合わせて覚えると世界が広がります。古代において惑星は黄道帯を動く天体として理解されたため、Aries, Taurus, Gemini, Cancer, Leo, Virgo, Libra, Scorpius, Sagittarius, Capricornus, Aquarius, Pisces は、単なる占星術用語ではなく、古代天文学の基礎語彙でもありました。黄道十二宮は太陽の見かけ上の通り道を十二に分けたものであり、そこを惑星が移動すると考えられたのです。
ここで面白いのは、曜日名に現れる惑星神と、黄道十二宮に現れる星座名とが、古代人の同じ宇宙観の中で結びついていたことです。たとえば Mars は火曜日の神であると同時に、黄道帯の諸星座を移動する惑星でもありました。Venus も同様で、金曜日の由来であるだけでなく、Hesperus として宵空に輝き、あるときは Libra や Scorpius のあたりに見える星でもあったのです。こうした連関を意識すると、ラテン語天文学用語集は、単なる単語帳ではなく、古代宇宙論の縮図のように見えてきます。
まとめ
ラテン語の天文学用語には、①古い日常語(stella, terra, nebula)、②神名から来た天体名(Mars, Venus, Saturnus, Sol, Luna)、③ギリシア語から入った学術語(planeta, cometes, galaxias, asteroides)、④近代科学のためにラテン語で再構成された語(planetula, pumilio alba)、が重なっています。つまり、ラテン語天文学語彙は、古代ローマ語彙だけでできているのではなく、ギリシア学術語の受容、神話的命名、近代科学の再ラテン語化という複数の層からできているのです。
そしてそれらは、曜日名や黄道十二宮とも深くつながっています。dies Martis を理解するには Mars を知る必要があり、Hesperus を理解するには Venus の見え方を知る必要があり、planeta を理解するには黄道帯という考え方を知る必要があります。そう考えると、ラテン語の天文学用語は、単なる専門語ではなく、古代人が宇宙をどう見ていたかを伝える文化語彙だといってよいでしょう。

