以下にラテン語の曜日をまとめておきます。日本語の曜日は、日・月・火・水・木・金・土という対応からも分かるように、ローマ世界の天体と神を対応させた七曜制を、近代に漢字で置き換えたものです。つまり、日本語の曜日はラテン語の逐語訳ではありませんが、発想としてはほぼ同じ体系に立っています。ヨーロッパの曜日名の多くも、もともとはラテン語の dies + 神名の属格 という形、すなわち「~の神の日」に由来しています。
ただし、現代ヨーロッパ語の曜日名は一様ではありません。ロマンス諸語ではラテン語形がかなりよく残っていますが、ゲルマン諸語では、ローマ神に対応すると考えられたゲルマン神の名に置き換えられた日が多く見られます。他方で、土曜日と日曜日、またドイツ語の水曜日などは、キリスト教化の影響を強く受けて、異なる系統の名称が定着しました。したがって、曜日名の歴史には、少なくとも①ローマの惑星神信仰、②ゲルマン世界による翻訳・置換、③キリスト教化による再命名、という三つの層が重なっています。
なお、ラテン語で「週」を表す一般的な語は hebdomas ですが、そのほかに hebdomada や septimana という語もあります。hebdomas は、もともとギリシャ語 ἑβδομάς に由来する語で、「七のひとまとまり」「七日間」「週」 を意味します。英語の hebdomad(連続した七日間)の語源となっています。
dies Lunae
月曜日。月の女神ルーナ(Luna)の日。
文字どおりには「月の日」です。ラテン語では Luna は月の女神であり、同時に天体としての月そのものでもあります。したがって、dies Lunae は「ルーナの日」であると同時に、「月の日」でもあります。ロマンス諸語ではこの系統が非常によく残っており、イタリア語 lunedì、スペイン語 lunes、フランス語 lundi は、いずれもラテン語のこの形に由来します。
ゲルマン諸語でも、意味構造はほぼ同じです。英語 Monday、オランダ語 maandag は、それぞれ「moon / maan の日」という意味で、ラテン語と平行的な命名です。つまり、月曜日については、ローマ世界とゲルマン世界のあいだで、神名の置換というより、天体そのものの共通理解が比較的そのまま保たれたといえます。
dies Martis
火曜日。軍神マールス(Mars)の日。
これは「マルスの日」、すなわち火星の日です。ローマでは Mars は戦争の神であり、同時に惑星 Mars と結びつけられました。ロマンス諸語ではこの語形もよく保存され、イタリア語 martedì、スペイン語 martes、フランス語 mardi となっています。
これに対して、英語 Tuesday、オランダ語 dinsdag などは、ローマ神 Mars ではなく、ゲルマン世界の戦神 Tiw / Tyr に置き換えた形です。英語語源辞典も、Tuesday をラテン語 dies Martis のゲルマン語的翻訳と説明しています。ここでは単なる音の継承ではなく、「戦神には戦神を対応させる」という意味上の翻訳が起きたわけです。曜日名は借用されたのではなく、しばしば神話体系ごと翻訳されたのです。
dies Mercurii
水曜日。商業神メルクリウス(Mercurius)の日。
これは「メルクリウスの日」、すなわち水星の日です。Mercurius は商業・旅人・伝令の神であり、ギリシア神話のヘルメースに対応します。ロマンス諸語では、イタリア語 mercoledì、スペイン語 miércoles、フランス語 mercredi など、いずれもラテン語の語幹をかなりよく残しています。
英語 Wednesday は一見するとラテン語と全く違って見えますが、これは古英語 Woden’s day に由来し、語源辞典はこれをラテン語 dies Mercurii のゲルマン語的翻訳だと説明しています。すなわち、Mercurius に対応する神として Woden / Odin が選ばれたのです。興味深いのは、ドイツ語ではこの系統が消え、Mittwoch(週の中日)が定着した点です。語源辞典は、これは教会的・非異教的な命名の影響を受けた可能性が高いと示しています。ここには、ゲルマン神への置換のさらに先に、キリスト教的中性化が起きたことが見て取れます。
dies Iovis
木曜日。最高神ユーピテル(Iuppiter)の日。
ここで Iovis は Iuppiter の属格です。したがって dies Iovis は「ユーピテルの日」、すなわち木星の日を意味します。ローマの最高神 Iuppiter は雷霆の神格をも帯びており、そのため後代の対応関係も比較的理解しやすいものになりました。ロマンス諸語では、イタリア語 giovedì、スペイン語 jueves、フランス語 jeudi となっています。
ゲルマン諸語では、この日には雷神が対応づけられました。英語 Thursday は Thor の日、ドイツ語 Donnerstag は文字どおりには「雷の日」で、同じ発想に立ちます。つまり、Iuppiter と Thor / Donar は、ともに雷と天空の力をもつ神として対応させられたわけです。曜日名の翻訳が、神格の機能的類似性に基づいていることが、ここではとてもよく分かります。
dies Veneris
金曜日。愛の女神ウェヌス(Venus)の日。
これは「ウェヌスの日」、すなわち金星の日です。Venus は愛・美・性愛の女神であり、ギリシア神話のアプロディーテーに対応します。ロマンス諸語では、イタリア語 venerdì、スペイン語 viernes、フランス語 vendredi がこの系統に属します。
英語 Friday は、語源辞典によれば、ラテン語 dies Veneris の西ゲルマン語的翻訳であり、ゲルマンの愛の女神 Frigg / Frigga に由来します。もっとも、学説上は Freyja との近接もよく論じられ、語源辞典も Frigg と Freya の機能的近さに言及しています。ここでは、ローマ神 Venus に対し、ゲルマン側では愛と婚姻に関わる女神が対応させられたと考えるのが適切です。
dies Saturni
土曜日。農耕神サートゥルヌス(Saturnus)の日。
これは「サートゥルヌスの日」、すなわち土星の日です。Saturnus はローマの古い農耕神であり、その名は英語 Saturday に比較的直接的に残っています。オランダ語 zaterdag も同系統です。土曜日は、ゲルマン諸語の中でもローマ神名が比較的よく残った例外的な日です。
しかし、ロマンス諸語では事情が異なります。イタリア語 sabato、スペイン語 sábado、フランス語 samedi、ドイツ語 Samstag は、いずれもヘブライ語由来の sabbatum(安息日)にさかのぼります。つまり、土曜日については、ローマ的な惑星神の命名が、キリスト教・ユダヤ教的な聖なる週の観念によって置き換えられたのです。曜日名の中でも、土曜日はとくに異教的命名から聖書的命名への転換がはっきり見える日だといえるでしょう。
dies Solis
日曜日。太陽神ソール(Sol)の日。
これは「太陽の日」です。ローマでは Sol は太陽神であり、同時に天体としての太陽そのものでもありました。ゲルマン諸語ではこの発想が比較的そのまま残り、英語 Sunday、オランダ語 zondag、ドイツ語 Sonntag は、いずれも「太陽の日」という意味です。
ところが、ロマンス諸語ではこの名称が大きく変わります。イタリア語 domenica、スペイン語 domingo、フランス語 dimanche は、ラテン語 dies Dominicus / dies Dominica、すなわち「主の日」に由来します。これはキリスト教化の結果であり、復活祭日としての日曜日を、太陽神ではなく主キリストの日として再解釈したものです。したがって、日曜日は土曜日と並んで、曜日名の中におけるキリスト教化の最も顕著な痕跡を示しています。
曜日名が語る三つの歴史
ラテン語の曜日名を全体として見ると、そこには三つの歴史が重なっています。第一に、月・火星・水星・木星・金星・土星・太陽という、ローマ世界の七曜・惑星体系があります。第二に、ゲルマン諸語ではそれが、Tyr, Woden, Thor, Frigg などの神々へ機能的に置き換えられました。第三に、土曜日・日曜日、さらにドイツ語の水曜日のように、キリスト教化によって異教的要素が薄められたり、別の名前に置き換えられたりした例があります。
その意味で、曜日名は単なる日常語ではありません。それは、古代の天体信仰、ローマ神話、ゲルマン神話、そしてキリスト教化の歴史が、日々の言葉の中に沈殿したものだといえます。日本語の曜日もまた、日月火水木金土という同じ七曜思想を漢字で表したものですから、ラテン語の曜日体系とは、語の形は違っても、発想の深いところでつながっているのです。
一週間の始まりは日曜日か、それとも月曜日か
日本やアメリカでは、一週間の始まりは日曜日です。しかし、ヨーロッパの多くでは月曜始まりが一般的です。Unicode CLDR のロケールデータでは、日本語ロケールは週の最初を日曜日、ドイツ語圏や多くの欧州ロケールは月曜日として扱い、表示上の「週の最初の日」は地域差があると明示しています。さらに、国際標準 ISO 8601 では、週の第1日は月曜日とされています。
なぜこう分かれたかというと、歴史的には宗教的伝統と近代の標準化が重なっているからです。ユダヤ教では安息日は土曜日で、これは創世記の「第七日」に対応します。キリスト教では、早くから日曜日が「主の日」として特別視され、復活を記念する日となりました。そのため、日曜日は「安息日の次の日」であると同時に、「新しい週の始まり」「第八日」とみなされる発想も生まれました。ブリタニカも、ユダヤ教の安息日が土曜日であること、またキリスト教で日曜日が「主の日」「第八日」と理解されたことを説明しています。
そのうえで、近代ヨーロッパでは実務上の週の区切りとして月曜日を先頭に置く慣習が強まり、これが国際標準 ISO 8601 でも採用されました。つまり、ヨーロッパで月曜始まりが多いのは、主として行政・商業・学校・労働の実務と標準化の結果です。宗教的には日曜日が特別な日であっても、カレンダー表示では「週末の次に来る最初の平日」である月曜日を先頭に置くほうが便利だったわけです。
要するに、日曜始まりは、キリスト教圏において「主の日」を特別視する伝統からは正統的な方式でした。このため、アメリカでは現在でもその方式が主流となっています。他方、日本はキリスト教国ではありませんので、日曜始まりの方式を採用する必然性はありません。しかし、文明開化当時に欧米で主流であったたまたまこの方式は、天照大神を最高神とする我が国の神道神話と調和的であったため、日本人の精神文化にとっても違和感がなく、その結果として、我が国でも定着したものと考えられます。他方、月曜始まりは、その後のヨーロッパにおける変遷であり、実務上便利だったことに加え、ISO 8601 によって国際標準として強く後押しされました。

