学位のラテン語表現

ラテン語

欧米では、学位や称号をラテン語由来の略称で表記する慣行が、現在でも広く見られます。たとえば、学士号・修士号・博士号などは、大学の卒業証書、名刺、履歴書、研究者紹介、公式文書などで、ラテン語の伝統を引く形で示されることがあります。もっとも、こうした表記は欧米全体で完全に統一されているわけではなく、国ごと、さらには大学ごとに違いがみられます。そのため、学位の水準や内容がほぼ同じであっても、用いられる称号や略称が異なる場合があります。以下では、そのうち比較的よく見られる主要な例を整理しておきます。

とりわけ博士号については、欧米では単なる学歴の記載にとどまらず、本人の名称に準ずるものとして扱われることがあります。そのため、氏名の前後に博士号を付して表記することが一般的であり、大学の名簿、研究業績一覧、契約書、公的証明書、その他の公式文書においても明記されることが少なくありません。日本では学位を日常的に氏名と一体で表示する場面は比較的限られますが、欧米では博士号が社会的・職業的資格の一部として可視化される傾向が、より強いといえます。

B.A. = Baccalaureus Artium
学士。英語圏で広く用いられる学士号の一つで、とくに人文科学、社会科学、語学などの分野で授与されることが多い。英語では通常 Bachelor of Arts と表記される。

Dr. = Doctor
博士。博士号取得者に付される最も基本的な称号であり、分野を特定しない一般的な表記である。国や文脈によっては、単に Dr. のみで博士号保持者を示すことがある。

Dres. = Doctores
博士(複数形)。複数の博士号保持者をまとめて示す場合に用いられる表記であり、たとえば夫婦や複数名の連名に対して用いられることがある。

Dr. habil. = Doctor habilitatus
教授資格論文により教授資格を取得した博士。主としてドイツ語圏で見られる称号であり、博士号取得後にさらに学術上の審査を経て、大学教授としての資格を備えたことを示す。

Dr. h.c. = Doctor honoris causa
名誉博士。学術上の正式な博士課程を修了したことによるものではなく、学術・文化・社会への顕著な功績に対して大学が名誉として授与する博士号である。

Dr. iur. = Doctor iuris
法学博士。法学分野における博士号を表すラテン語表記であり、ドイツ語圏や中欧の大学の学位表記でしばしば見られる。

Dr. med. = Doctor medicinae
医学博士。医学分野の博士号を示す称号であり、医師資格そのものとは区別される場合もあるが、国によっては医師の肩書としても広く認識されている。

Dr. med. dent. = Doctor medicinae dentariae
歯学博士。歯学分野の博士号であり、歯科医学・歯科治療学の学術的専門性を示す称号として用いられる。

Dr. mult. = Doctor multiplex
複数博士。一人の人物が複数の博士号を有していることを示す称号であり、異なる分野で複数の博士号を取得した場合などに用いられる。

Dr. rer. pol. = Doctor rerum politicarum
政治学博士。もっとも、実際には政治学に限らず、経済学、社会科学、経営学などの分野に対して授与されることもある。ドイツ語圏で比較的よく見られる学位表記である。

Dr. theol. = Doctor theologiae
神学博士。キリスト教神学を中心とする神学研究に対して授与される博士号であり、教会関係者や神学研究者の肩書として見られることがある。

J.D. = Juris Doctor
法務博士。主としてアメリカで用いられる法学の専門職学位であり、法曹実務に進むための基本的な学位として位置づけられている。名称に Doctor を含むが、ヨーロッパ型の研究博士とは性格が異なる。

JUDr. = Juris Utrisque Doctor
両法博士。もともとはローマ法と教会法の双方に通じた法学者に与えられた称号であり、中欧諸国、とくにチェコやスロバキアなどで歴史的・制度的背景をもって用いられている。

LL.B. = Legum Baccalaureus
法学士。英語では通常 Bachelor of Laws と訳される。LL. はラテン語 leges(法律)の複数形に由来し、法学全般を対象とする学士号である。

LL.M. = Legum Magister
法学修士。英語では通常 Master of Laws と訳される。法学をすでに修めた者が、さらに専門分野を深めるために取得する修士号として国際的に広く知られている。

M. = Magister
修士。ラテン語由来の一般的な修士号表記であり、分野を特定しない簡略形として用いられることがある。ただし、実際には大学や国によって使用頻度は異なる。

M.A. = Magister Artium
修士。現代英語では通常 Master of Arts と理解され、人文科学・社会科学系の修士号として広く用いられている。伝統的なラテン語表記の名残をとどめる称号である。

MDDr. = Medicinae Dentale Doctor
歯学博士。中欧諸国で用いられることのある歯学系の学位表記であり、歯科医学を修了したことを示す称号である。

MUDr. = Medicinae Universae Doctor
医学博士。主としてチェコやスロバキアなどで見られる医学系学位であり、医学課程修了者に与えられる称号として用いられる。

Ph.D. = Philosophiae Doctor
哲学博士。もっとも、この場合の「哲学」は哲学という一分野に限られず、広く学術研究一般を意味する。そのため、自然科学、人文科学、社会科学など多くの分野の研究博士号として国際的に最も広く用いられている。

S.J.D. = Scientiae Juris Doctor
法学博士。英語では通常 Doctor of Juridical Science と訳され、主として英米法圏における上級の研究博士号を指す。J.D. が実務法曹向けの専門職学位であるのに対し、S.J.D. はより研究者養成的な性格を有する。

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